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プロローグ
通称『音ゲー』と呼ばれる、音楽とゲームが一体化したアミューズメントが流行りはじめた‘98年前半。セガ・メカトロ研究開発部でも新しいゲームが誕生しようとしていた。音と光が炸裂し、クラブで踊るような感覚でプレイできる、超新感覚のスポーツアクション音楽ゲームである。たくさんの新しい試みを搭載したこのゲームは、その特異性ゆえに、完成までにいくつもの大きな問題をクリアすることが要求された。
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クラブシーンに向けて
企画の杉森は、自分の描いたラフを見て思った。見た目ハデで、ノリのいい音楽が大音量で流れ、プレイヤーたちが踊るような感覚でプレイする・・・このゲームはアミューズメント施設に置くよりも、バーやクラブに置いた方がしっくりくるんじゃないだろうか。
彼はエアホッケーの電飾バージョンを作ろうと考えていた。パットの代わりに蛍光の赤光がフルスピードでクリアテーブルの中を移動し、それをマレットの代わりとなる緑光で打ち返す。その美しさと独特のフォルム、そしてノリのいい音楽は、バーやクラブの雰囲気を一層盛り上げるだろうと思えた。
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デザインをカタチに
企画案としては8割がた完成図が見えていた『FLASH BEATS』だったが、制作段階で筐体設計スタッフからNGが出た。ラフデザインにあるようなクリアな色、なめらかなフォルム、そして強固性を兼ね備えた材質を見つけるのは不可能といわれたのだ。しかし、杉森とて無謀な案を出したわけではない。
「企画案がそのまま実現できるわけがないことはもちろん承知しています。でも、逆に『絶対に不可能』ということもないですよね?」。
実は彼は、もともと設計の人間だったのだ。構築段階での行き詰まりは計算の内で、その打開策を模索するのも慣れたものだった。結局、設計者には無理を言ってしまったが、天板には強化ガラスを用い、両脇のボタン操作エリアには衝撃に強いプラスチック材を使うことで、ほぼ理想通りの外観を作ることができた。
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走る発光体
次に解決しなければならない問題は、フィールド上を行ったり来たりする光を出すにはどうするか、ということだった。まず候補にあがったのは電球。いくつもの電球を並べて順に光らせることで、あたかも光が走っているように見せようとした。しかし、スタッフのひとりが言った。
「電球は寿命がくると球切れするから、ゲーム機としてはメンテナンス性が悪いんじゃないか?」
皆悩むヒマもなく、電球に変わる“光るもの”を探しだした。そしてようやく見つけたのが、LEDと呼ばれる発光ダイオードだった。LEDは電球に比べ、『熱が発生しない』『切れない』『電気を食わない』など、メリットの多いものだ。
「これなら消費電力も少なく済んで、メンテナンスもラクになるじゃないか」。
制作スタッフたちは、徐々に完成に近づきつつある新ゲームに心を躍らせていた。
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最高にノレる曲を!
一方、プレイ中に流れる楽曲選びの方は難航していた。というのも、使用する曲は、ただプレイ中に流すだけでなく、CD化するところまで考えていたからだ。しかし楽曲には『原版権』という、音源をCD等にして発売する権利があり、これを持っている会社以外からはCDの製造販売は出来ないことになっていたのだ。杉森は全15曲すべての許可をとるため、自ら音楽事務所をあたった。交渉してNGを出されることも多く、当初の予定よりもかなりの月日を費やすことになったが、最終的には彼の人柄がものを言ったのか、反対に音楽事務所から使えそうな曲を提案してくれたりして、ゲームのイメージにぴったりの曲を集めることができた。
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果たせなかった“最大の目的”
多方面での苦労の甲斐あって、‘99年に渋谷で開催されたイベントでは、カップルや10代〜20代の男の子たちに大盛況だった。彼らはまず、派手な光と音楽を放つ筐体に興味を持ち、そしてゲームの楽しさにハマっていった。
──プロジェクトは成功だった──誕生から数年が過ぎた今でも、杉森はそう断言することに何の躊躇もないが、しかし、心残りはあった。それは、最大の目的であった『クラブやバーへの設置』が実現されなかったことにある。理由のひとつは、今までとは全く畑違いの取引先だったため、機械の販売・運営が難攻した事にあった。
「でも理由は他にも」と杉森は続ける。「普通のクラブやバーに置くには筐体が大きすぎた。もし天板が真っ平らでテーブル代わりにも使えていたなら、あるいは…」。
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限りない思い
『FLASH BEATS』が設置されたアミューズメント施設では、その一角があたかもクラブのフロアになったかのように盛り上がり、異彩を放っていた。そういった意味では、製作スタッフたちの目的は叶えられたと言っていい。
しかし、例えどんなに成功を収めたゲームを作ろうと、開発者たちの無限のこだわりは自らに100%の満足感を与えることはない。ひとつのゲームが生まれ、世に出て消化されて行くまでには、制作スタッフたちのいくつもの喜怒哀楽が積み重ねられる。そんな思いが、次の傑作誕生への大きな原動力になって行くのである。
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